コインロッカー


1988年。俺が中学2年の時、学校の演劇部が文化祭の出し物で、こんな芝居を上演した。

ある女がトイレで赤ん坊を産み落とし、コインロッカーに入れ立ち去る。ロッカーの中でギャアギャアと泣く赤ん坊は、駅員の手によって無事保護され、孤児院に預けられることになる。赤ん坊は可愛い女の子だに成長し養女として、ごく普通に家庭に引き取られる。自分がコインロッカーに捨てられたことは知らされず育てられ、幸せな青春時代を過ごすのだが、高校生になった16の春に男と恋に落ち妊娠。結婚を反対された女の子は高校を中退し男と駆け落ちする。しかし、男が思うように仕事に就けず失踪してしまう。絶望する女の子。悩んでいるうちに妊娠5ヶ月を過ぎ、どうすることもできないまま駅のトイレで出産。子供はコインロッカーに入れ立ち去る。


場面は最初のロッカーの中に戻る。ここで唐突に神が登場し赤ん坊に問う
「これがお前の人生だ、それでも生きたいか?」
今まで見ていたのは、最初の赤ん坊の将来だったのだ。
赤ん坊は答える
「それでもいい、私は生きたい」
コインロッカーの扉が開く。

30分程度の芝居だったと記憶している。どこでどう間違ってこんな内容を上演することになったのか、脚本は誰が書いたのか元ネタはあるのか等は、未だに不明(ちなみにその時の演劇部は全員女子だった)。しかし、今で言う中二病が爆裂したような衝撃の展開に教師共はドン引き。職員会議が開かれ、「演劇部は廃部だー!」とある女性教師キレまくり、一方で「芝居とはこう言うモノだー!」という演劇部顧問教師が熱くぶつかり合ったとか合わなかったとか。結局、どうなったかは覚えてないんだけど、演劇部時代はつぶれること無く存続することになった。ただその後、どんな芝居を上演していたかは覚えていない。


これに俺はガツンとやられてしまい、主役の女の子に惚れて告ってしまうほどであった。そんなわけで、未だにコインロッカーを見るたびに、この芝居の事が頭をよぎる。
余談だが主人公を演じたこの女の子は、非常にレベルの低い高校に進学し卒業後、地元福島でキャバクラに勤めていた。成人式で聞いた話では、店のお客と結婚したとのことだ。