面倒だから体を全部機械化しちゃえよ「機械男」

機械男

機械男

機械しか愛せない男、コミュ障の超天才ギークのチャーリーさん。彼は<ベター・フューチャー社>に勤める優秀なエンジニアだったが、実験中、うっかり巨大万力で足を挟まれ片足を切断することになる。
会社の保険で手厚い医療を受けることになるチャーリー。コミュ障的才能を発揮させリハビリ師をも厄介払いする彼の目の前に現れたのは義肢技師のローラ。彼女は”現時点で最高の品質の義足”をチャーリーに進呈。それは確かにバランスも取りやすく”運動エネルギーを無駄にしない”効率の良い義足だったが、、チャーリーに取ってはローテクのヘッポコパーツでしかなかった。
そこで退院したチャーリーは、会社で勝手に義足を改造、どんな義足よりも高性能な<美脚>を開発する。あまりの<美脚>の性能の良さに入れ込んだチャーリーは”大丈夫な方の足”も自ら切断、両足とも<美脚>にしてしまう。
<ベター・フューチャー社>は、この事態に頭を抱えるが「いや、実は<美脚>ってすげえ儲かるんじゃね?っていうか、チャーリーって、すげえヤツなんじゃねぇの?」と、チャーリーに一大プロジェクトチームを預け、次々と”ベター”な製品開発に乗り出す。
そして、チャーリーは機械愛に同調した義肢技師のローラと恋仲に。
かくして、彼はコミュ障からリア充への一大変貌を遂げる。
しかし、一方で、彼は自らのチームが開発した義手に魅せられ「僕の今の手・・すごく不便だよな・・」と考えるようになる。
さらにこの裏には<ベター・フューチャー社>の腹黒い思惑が動き始めていた。

チャーリーは画に描いたようなギークで、着る服を選ぶことさえ携帯電話が無いと決められないガチのガジェット依存男。
そんなガジェット好きが男が、足切断を切っ掛けに自分の四肢をガジェット化することを覚え、それが暴走していく様が中心となる。

チャーリーはモトから自分でつかうガジェットを思いのままに作り出すことだけが目的で、チームを与えられても、何を命じるわけでも無く自分だけの研究に没頭する。
しかしチームは、チャーリーに触発され、<美脚>以降、各種高機能人工パーツを勝手に開発していくのだが、自分を自分たちで作ったパーツで改良して行くことに歯止めがきかなくなる。この様が徹底的だ。ただのズーム機能付きメガネが、ズーム機能付きコンタクトレンズになり、そのコンタクトが自由に瞳の色を変えられる<ベター・アイ>へと進化していく。さらに<ベター・アイ>の装飾機能をヒントに、ホルモン分泌を調整し肌や髪の状態を改良するパッチ<ベター・スキン>が制作されていくのだ。

神経接続される<美脚>の性能も圧倒的で、念じるだけで”その場所へ”連れて行ってくれる。危険回避のためなら20フィートの跳躍もし、その蹴りは2トンのSUV社も吹き飛ばす。

チャーリー自身が研究のために足をぶっちぎるような人間なので、あおりを受けた開発チームは自らの体を使った人体実験をも辞さない。
最終的には「異様に見た目が良いが、中身はギーク」というヘンテコ研究者チームが形成されていくのだ。これが<ベター・フューチャー社>の思惑やチャーリー、恋人のローラの秘密を巻き込み有機体ロボ同士の大喧嘩に発展していく様は圧巻。

誰しも自分の外見で気になる所を改良したいと思っている。たとえば歯並びが悪ければ矯正もするが、機械男の世界は違う。天才がなんでも作ってなんでもベターしてしまう。歯並びが悪ければ、歯をすべて<ベターな>パーツに全て取っ替えしてしまうのだ。急速に発展していく技術は倫理観を無視して全てをベターにしていく。本作の最後に提示される最終的に全てを<ベターに>した状態は、典型的なSFオチとも言えるが、唖然とすること受け合いだ。

本作は「レクイエム・フォー・ドリーム」、「ブラック・スワン」のダーレン・アロノフスキーで映画化予定されている。彼の初期作品「π」を彷彿とさせるこの「機械男」はお誂え向きであり、非常に楽しみである。